2011年6月20日月曜日

フランス語の発音と音楽と

一昔前(戦前とか)のフランス文学の先生たちは、音から入る勉強を知りませんでした。全く頭だけで、外国語の文法も、語彙も、修辞も、文化も、理解しようと務めたのです。

そのため、日本が70年代から80年代にかけて大きくハイテク民族へと変貌を遂げたにも関わらず、外国語の勉強には長く「自分独りで辞書を見てやること」というイメージがつきまとっていたようです。これは、一方で蛍雪の思想に通じる切ない克己心の現れかもしれませんが、他方では、語学をマニアな趣味に堕してしまう可能性もある態度です。その証拠、かどうかは分かりませんが、2011年の現在も、日本には複数の言語を初中級程度に知っている人は実に多く、海外に多い完全なバイリンガルやトライリンガルは実に少ない。

今の学生は、「辞書オンリー」と「ネイティブに習う会話オンリー」の二つの極端な方法の間で迷っています。どちらもそれだけでは問題を残します。最初は簡単だった問題が、後になると修正不可能な問題となることがあります。「オンリー」は何においても避けるべき態度です。

では、最初の確認に戻りましょう。

フランス語はその他西洋言語のすべてと同じく音声言語です。これは日本語との根本的な違いです。音がすべてではありませんが、音と綴りの合致を理解すれば、皆さんの感受性とフランス語との親和性は確実に上がります。文法や会話についての話はその後です。

「外国人のためのフランス語基礎」を学べるらしいNetprof.frというサイトの第一課には、このような発音講習のビデオがあります。

http://www.netprof.fr/Voir-le-cours-en-video-flash/Français/Français-pour-etrangers/Français-pour-etrangers-Prononciation-1,32,134,1001,1.aspx

奇妙なことにこの講習はすべてフランス語でなされているのですが、

大事なのは、
"e"の発音が最初に来ていること。

例として、tasse, métro, livreという言葉が繰り返されていますね。tasseの最後のeは無音であること、métroのéは、アクセントがついているために明らかな「エ」の音が聞こえること。

途中で
Mercredi(水曜日)という言葉が出てきます。Mer / cre / di と音節に分けます。最初の区切りのeは発音し、真ん中の区切りの最後のeは無音です。

次にはっきりと「エ」の音を出す
café, allée, génération, musée, aller, boulanger, chez, clef, pied という例が出てきます。

などなど、e, é, è, êのバリエーションを勉強するにはよいビデオです。コメントのフランス語を無視して、画面上に例として書かれている単語をよく見て、できればノートして、その単語を繰り返しているナレーターの声を真似してみましょう。

無音のeの他に、いつも授業で繰り返しているように、単語内および一連の言葉のつながりにリズムをつける「音節」の区切りへの意識を高めましょう。バロック音楽のように規則的で単調な音節区切りは、美しいフランス語の最大の評価基準だと申し上げましたね。

(ちなみに、バロック音楽とは何かという聴本として、17世紀末の宮廷作曲家フランソワ・クープランの『神聖な砦(Les barrières mystérieuses)』という有名なハープシコード楽曲を加えておきます。繰り返し、美しいフランス語はこのようなリズムで話されるのが理想です。)

http://www.youtube.com/watch?v=3faeOiu3vOw&feature=related


2011年6月16日木曜日

さらにー2011年度仏バカロレア、ディセルタシオンの問題が公表されました

雨の日、二つのクラスのために6月末から7月初めにかけて行う期末テストの問題を作りました。一年目前期のクラスでは「実力」を問うことなど不必要と考え、毎年、問題と問題を解く鍵を前週に与え、テストの日には何も見ずに同じ問題を解いてもらうことにしています。

が、このようにしても、決してよい点を取ってくれる生徒ばかりではありません。(涙)

このブログでは、ここ二回フランスのバカロレアの話でしたが、締めくくりましょう。バカロレアの筆記は、私の期末試験などとは比べ物にならない厳しい「実力試験」です。ディセルタシオンと呼ばれる筆記試験(詳細は前回を参照)の主題(コースごとに三題出されて、生徒が自由に選択する)は、毎年のバカロレア関連ニュースの中でも、最も教育関係者の関心を惹くところです。今年の主題は以下です。

ESコース(一般)
主題1「平等は自由を脅かすものか」
主題2「芸術は科学に比べて無用なものだろうか」
主題3「古代ローマのストア派哲学者セネカの『恩恵』の抜粋テキストを解釈する」

Lコース(文学ー特待生コース)
主題1「科学的仮定を証明することは可能か」
主題2「自分自身について幻想を抱くのは人間の宿命なのか」
主題3「ニーチェの『喜ばしき知識』の抜粋テキストを解釈」

Sコース(理系ー成績不振の高校生用コースとされる)

主題1「文化は人間を不自然に歪めるか」
主題2「事実に反していながら正しいことは言えるか」
主題3「パスカルの『パンセ』の抜粋テキストの解釈」


コース別に分けられた高校生たちは、これらの主題から一題を選んで、6時間のうちに論述を組み立て、長文の小論文(与えられた紙20枚分ほど)を作り上げます。


ディセルタシオンの規則は、「序文、展開、結論に章分けすること」、「展開はさらに三章以上に分け、それぞれの章が一貫し、次の章につながる論理を持っていること」、「各章では三人以上の有名な作家ないしは三作以上の哲学・文学の古典作品の例を引くこと」、「完璧なフランス語で書くこと」などです。


私も院生時代に随分と勉強した方法です。フランス人の文学や思想、ひいては社会、国家、世俗的伝統といったものについての考え方を如実にあらわしている方法かとも思います。





2011年6月15日水曜日

2011年度バカロレア(フランス高校卒業資格試験)追加事項

↓のニュースに詳細を加えますと。

2011年度のバカロレアは22日まで続くようですが、共通試験の内容は以下の通りです。

1.6月17日金曜日午後、「数学・コンピューター」科目の試験。
2.20日月曜日、「フランス語」および「フランス文学」の試験。(この二つは違う科目です。)この日から、「筆記試験」と呼ばれる最大イベントが始まります。前回に話した「ディセルタシオン」のことです。フランス人の子供たちの生涯最初の18年は、この試験の準備のために使われると言っても過言ではないほど、彼らの人格と将来を決定する試験です。
3.22日水曜日は「理科」の試験。

次は、「フランス学生ウェブ新聞」に載った、バカロレアに関するビデオです。

「Spécial Bac - バカロレア前日をどう過ごすか」
http://www.letudiant.fr/bac/videos-reussir-ses-revisions-du-bac-17494.html

インタビューに答える一人目の女の子は「レティシア、文学専攻(つまり特待生)」、二人目は「オリヴィエ、理系専攻(平均の高校生)」、三人目は社会科の先生、四人目は「高校専属医師・精神科医・心理学者」(フランスの高校の保健室には、医者と児童心理学者を兼ねる精神科医が必ずいます)

最後の医者は「バカロレアに落ちたって、それで人生が終わるわけではないと考えなければなりません。子供だけではなく、両親も同じことです。バカロレア前日は夜更かしをせず、その代わりに、家でテレビを見たり、レストランに行ったりすることもアリでしょう」と言っています。そういう言葉の裏に、バカロレアが、フランスの高校生とその親御さんにとって、どれほどストレスフルなイベントかを伺うことができるでしょう。

しかし、フランスのバカロレアは、「学力」の点では大きく他の国の大学入学試験に劣っています。それでもこれほどにストレスがあるのは、あくまでも、「学力」や「偏差値」に収斂されない、「ディセルタシオン(小論文)」試験の重さゆえなのです。

文学伝統に依拠した書き言葉を手にすることが、フランスでは社会的認知にいたる最大の難関なのだと言えます。

フランスがなぜ経済的に後進的でありながら、世界的に最も強大な文化大国でとどまってきたのか、バカロレアの試験内容を見ても明らかなことではないでしょうか。

2011年6月14日火曜日

フランスではバカロレアの季節

フランスの新学期は9月に始まります。6月最終週から8月31日までという、二ヶ月に渡る「大バカンス(les grandes vacances)」を挟むため、前学期は6月に終了します。

高校三年生の6月は、「バカロレア(le baccalauréat)」というイベントによって締めくくられます。非常に稀な例を除き、バカロレアは誰にも免れません。

これは、高校卒業資格の全国試験です。

http://ja.wikipedia.org/wiki/バカロレア資格

フランスでは、省略してBAC(バック)と呼ばれます。

日本と違い、西洋諸国では、大学の入学試験の前に高校卒業の資格を必要とします。これは、18歳までに学んだ知識の総合審査で、その後専門学校に行っても、あるいはすぐに働いても、生涯必要となる資格です。

資格とは言え、さほど難しい訳ではありません。ウィキペディアには「取得率62%」とありますが、これは実際80%を超えているとの国民教育庁の報告があります。日本の大学入試に比べて、遥かに気楽なイベントなのです。

バカロレアの試験はコースによって異なります。今年は全コースの試験が、13日に一斉に始まりました。各市町村が認定した数カ所のリセ(lycée 高校)に、その地区の高校生たちが皆集まり、認定リセの教師が試験監督を請け負って、一日中、必要教科の試験と作文の審査があります。バカロレア試験は数日続き、生徒たちは、6月20日に始まるバカンスを待って、黙々と紙を埋めていきます。

ちなみに、作文試験について述べますと、これは作文と言うよりは小論文で、dissertation(ディセルタシオン)と呼ばれます。日本の「レポート」、「小論文」とは全く規模が異なります。生徒一人一人がアトランダムに主題を与えられ、それについて、規則に従った論理展開を駆使して、完璧なフランス語で論じることを求められます。6時間、彼らは教室に閉じこめられ、論文の構想を練り、プランを立て、テーマを列挙し、論述を組み立て、そして書き続けます。多くが白紙の紙20枚以上にびっしりと書かれた答案は、「個人作品の複写」という意味での「コピー」という表現で呼ばれます。20点満点でつけられるその点数は、(よい点だった場合)履歴書に加えることができます。大人になってからも、一生有効な点数です。ディセルタシオンはバカロレアの花形競技と言えましょう。

バカロレアが終了し、集められた答案は国民教育省の外郭機関を通して、匿名で採点担当教官に配布され、教官たちはその後3週間後に結果を報告する運びとなっています。

バカロレアの結果は7月14日に発表されます。

バカロレアに「強い」高校ランキングも、毎年教育省から出版されます。ここで「強い」というのは、ほぼ全員を合格させるだけでなく、高得点で突破した生徒を多く抱え、また、その生徒たちのほとんどが、その後難関の高等教育機関へ進学する学校のことです。こうした高校は、やはり、首都パリの最も高級な地区に集まっています。

以下は、2月に行われた高校生たちの大学模擬授業の様子です。

http://www.youtube.com/watch?v=L40Gc0ZrdKw

2011年6月12日日曜日

初級フランス語の問題

毎年、学生さんのお顔が変わります。

皆さん、大学時代に知らない言語を手にしようと思ってやってきてくださる方々ばかりですが、2年続けて勉強してくださる方は稀です。一部の大学では1年のコースしか設けられていないから、ということもあるでしょう。

もちろん、すべては最初が大事です。1年しかフランス語を学ばない場合でも、確かな知識をつかみましょう。

フランス語のみならず、西洋言語一般には次のような最初の難関があります。

1、発音ーアルファベットの並びの規則と音の規則を結びつけて覚え込むこと。
2、男性名詞と女性名詞、名詞の単数と複数の区別ー日本語にはもちろんありません。
3、人称代名詞と動詞活用ー英語以外の西洋語には必ずあります。
4、最後に文化的な相違ー「私」の視点が必ず必要な文章構成

これら難点は、西洋語を勉強するあらゆる日本語話者にとって同じ難点です。

フランス語を数ヶ月、あるいは一年以上学んできた皆さんにとって、何が一番難しいと思われるでしょうか。

私のフランス語の授業に出ている人のためのブログを開設しました

前略、

このブログでは、特定の大学の授業のお知らせなどはしません。

とは言え、メインの対象は、私の授業に出てくださっている生徒の皆さんです。

フランス語の勉強の仕方、フランスおよびフランス語文化圏の歴史や文化、日本語とフランス語の関係の話を、交互にしていきます。

できるだけコメントをしていただければ、大変嬉しく思います。

先生より